第三部第二話、アップしました。本来の第三部オープニングはこの第二話の内容のつもりだったのですが(今さら)、第一話が、あの、ええと。という感じです。
第三部を始めるにあたって、一応当初の目標を立てました。「一事件で文庫本一冊分(300ページくらい)」、というような分量的なことでした。まあ、第一部は何にも考えてなかった、第二部は事件三つくらいと思って書いた、第三部は一事件で一冊書けるかやってみよう、まあそんな雑な話です。
終わりがちょっとずつ近づいてきて、少し淋しくなってますが、何とか八月中には終えられるよう頑張ります。あと6話。追記にはいつも通り冒頭二〇行。よろしくお願いします。
裏山から吹き抜けるたっぷりとした風の音は、数日前までの下界の残暑など、まるで知らないようであった。都心からわずか二時間の距離とは言え、いくらかは標高も上がってきたこの辺り、秩父はもう、静かに秋の中であった。青木はるみの運転するRX7で、相馬ひなは大叔母に当たる相馬みさをの元を訪れていた。
今日は、もう一人、供がいた。供の者は、始めて見るその景色に、我知らず眩しそうな眼をした。車から、訪れた家の方を見れば、裏山には杉、椚、椎、樫の大きな木立と風に揺れる竹の林が見えた。振り返れば、今し方右に左にと蛇行しながら登ってきた細い舗装路と、棚田や段々畑が目に入る。
都会暮らしに慣れた眼には、ただそれだけのことが新鮮に見える。
「おばさま、ひなです。ただいま参りました。おばさま?」
鍵のかかっていない玄関の引き戸を遠慮なく開けて、ひなは大きな声で声をかけた。
都会の者が家と言うにはやや大きく、しかし屋敷と言うには小さい、造りも決して現代風とは言えない、あえて言えば古民家と言うのがぴったり来るような、そんな建坪と雰囲気の家に、相馬みさをは一人で住んでいた。週に二度ほど、相馬家ゆかりの者が訪れ、細々としたものを届け、話し相手になる他は、たいていのことは一人で済ませていた。車を運転して、自ら買い物に出かけることもある。
「よく来ました。まずはおあがりなさい。」
縁側に、ひなの声を聞きつけたみさをが姿を見せる。
「はい。」
玄関をのぞき込んでいたひなはその声を聞いて、玄関をくぐらず、小走りに縁側の方に……
続きはお手数ですが、pdfで。>第三部第二話